単調な事務作業に、遊び心を ーー デザイン事務ハンコショップ 「JIMUHAN」が出来るまで

「切手はたくさん種類があるのに、事務用ハンコは決まったものしかない。それが不思議だった」こう話すのは、デザイン事務ハンコショップ「JIMUHAN(ジムハン)」を運営する、七字卓馬(しちじ たくま)さん。彼は"事務用ハンコ"という、変化のなかった領域に目をつけ、事務仕事が少し楽しくなるような事務用ハンコを数多く生み出してきた。広告制作会社出身の七字さんがなぜ、無関係な分野である事務用ハンコを製作しようと思ったのか。彼のキャリアから、その経緯を紐解いていく。

by BASE Mag. 公式

単調な事務作業に、遊び心を ーー デザイン事務ハンコショップ 「JIMUHAN」が出来るまで

編集日時: 2016/08/30 10:32
「切手はたくさん種類があるのに、事務用ハンコは決まったものしかない。それが不思議だった」

こう話すのは、デザイン事務ハンコショップ「JIMUHAN(ジムハン)」を運営する、七字卓馬(しちじ たくま)さん。彼は"事務用ハンコ"という、変化のなかった領域に目をつけ、事務仕事が少し楽しくなるような事務用ハンコを数多く生み出してきた。



広告制作会社出身の七字さんがなぜ、無関係な分野である事務用ハンコを製作しようと思ったのか。彼のキャリアから、その経緯を紐解いていく。

すべての始まりは「カミロボ」

-- 「請求書在中」の事務ハンコ、すごく可愛いデザインだなと思いました。元々、七字さんはデザイナーだったのでしょうか?

七字:そうですね。高校を卒業後、専門学校に通って、デザインの勉強をしていました。そこで偶然にも、日本を代表するアートディレクターの一人である、青木克憲(あおき かつのり)さんが講師としていらっしゃって。当時は先生と生徒という立場だったのですが、この出会いが後に自分のキャリアに大きな影響を与えてくれました。

-- 七字さんのキャリアに青木さんはどのように関わっていくのでしょうか?

七字:青木さんは広告の企画制作をメインに行う、「バタフライ・ストローク・株式會社」を1999年に立ち上げていて。みなさんが知っている、キリンビール、コカ・コーラといった大手企業の広告キャンペーンの企画制作をいくつも手がけていました。

さらに青木さんは広告の仕事以外に、キャラクターライセンスのプロデュースにも進出していました。造形師の安居智博(やすい ともひろ)さんが幼少期から作り続ける作品群、「Kami-Robo(カミロボ)」のプロデュースを行っていました。

-- 「Kami-Robo」ですか……?

七字:ご存知ないですか?(笑)カミロボとは厚紙と針金で作られた全長15cmほどの紙人形です。安居智博さんが幼少期から空き箱などを使って作り続けているものが基になっているんですけど、2005年に展覧会で発表されてから、Kami-Roboというアート作品として国内外で広く知られるようになりました。

もともとカミロボは安居さんがプロレスの世界観を使って一人遊びとしてスタートしました。両手にカミロボを持って戦わせる「カミロボプロレス」というものです。カミロボをキャラクタービジネスとして発表して、展覧会やイベントをスタートするにあたり、自分のプロレス好きが功を奏して、青木さんからバタフライ・ストロークに誘ってもらえたんです。



--  プロレス好きだったんですね(笑)

七字:そうなんです(笑)。本当にプロレスが大好きで。青木さんと会うたびに、一方的にプロレスの話をしていたくらいです。そうしたら、あるとき青木さんから「今度、カミロボっていうプロレスのキャラクターを発表するから手伝ってよ」と言われ、カミロボのプロジェクトに参加しました。まさか、好きが高じて入社できるとは思ってもみなかったですね。

横に広くしていくことを選んだ

-- 実際に入社されてからはどのような仕事を?

七字:バタフライ・ストロークに入社してからは、広告のグラフィックデザイン、カミロボをはじめとした自社キャラクターの国内外の展覧会、ショップのマネジメントなど、とにかく様々な仕事をさせてもらいました。それまでの自分はデザイン以外の仕事はやったことがなかったですが、入社してからは青木さんや安居さんなど一流のクリエイターのお手伝いは、どんな仕事でもやろう、といった感じでした。

-- 世間一般のデザイナー像とはちょっと異なりますね。

七字:はい。バタフライ・ストローク・株式會社に入社してくる同僚デザイナーの多くも、アートディレクターの青木さんからいかに色々なものを吸収してステップアップしていくか。そう考る人が多かったと思うんですけど、僕はどうすれば色々なプロジェクトに色々な立ち位置で参加できるか、を考えて仕事をしてきました。

バタフライ・ストロークで企画制作に関する知識を学び、デザイナーとして専門性を磨くよりも、媒体を問わず様々な仕事に多く携わるマネージャースキルを持ったデザイナーになった方が「好きなことは、何でもやりたい」自分には合ってると思いました。

その後、年齢も30代に入って、さらにいろいろなことにチャレンジしたいという希望もあって、フリーランスとして働くことにしました。

同じような疑問を持った人がいることに感動した



-- 会社員からフリーランスへ。なかなか思い切った決断をしましたね。

七字:それまではチームで仕事をしてましたから、思い切った決断だったなと思います。まずは前職の経験が生かせる広告の企画制作の仕事を請け負っていました。

仕事内容はこれまでと変わりなかったのですが、フリーランスになってから、これまで誰かがやってくれていた仕事も自分でやらなければいけなくなって。それが少し大変でしたね。

-- それは経理作業などですか?

七字:はい。バタフライ・ストローク・株式會社で働いていたときは、経理作業は経理担当の方が一手に引き受けてくれていたのですが、フリーランスは全て自分でやらなければなりません。最初は経理作業の作法が全く分からなかったので、見よう見まねで封筒に「請求書在中」のハンコを押して送っていました。

その作業を繰り返しやっているうちに、ふと、「事務用ハンコって既製品しかないな」と思ったんです。切手はたくさん種類があるのに、なぜ事務用ハンコは既製品しかないのか、気になって調べてみると自分の手でハンコを作れることが分かりました。

それが分かってからは、早かったですね。フリーランスになったからにはやりたいと思ったことは何でもやらないと損だなと思い、事務用ハンコを自分で作ってみることにしました。



-- フリーランスになって初めて体験した「経理作業」から、この事務用ハンコが生まれたと。

七字:そうです。とりあえず、「請求書在中」という文字のハンコを作って、インスタグラムに写真をあげてみたんです。そうしたら、友人や知人からの反応が良くて。最初は仮説から始まったハンコ作りだったのですが、この反応を見て、「もしかしたら知り合い以外にも共感してもらえるかもしれない」と思いました。

それがきっかけとなり、インターネットで作り上げた事務用ハンコを売れる場所がないか探していたら、BASEに辿り着いたんです。説明に従っていたら、あっという間に自分のショップが完成していて。とにかく感動したのを覚えています。
 
-- 実際に販売してみて、反応はどうでしたか?

七字:ショップを開設した直後は売れなかったのですが、しばらくして1個売れたんです。商品の注文が入った通知を見たときは、ものすごく嬉しかった。それも自分の知り合いではなく、おそらく日々、経理業務をやっているであろう人に買ってもらえたんです。

-- その嬉しさ、もう少し具体的に教えてください。

七字:毎日封筒にハンコを押している経理の現場の方が買ってくれた。自分と同じように、既製品しかない事務用ハンコに対して、他にも選択肢があってもいいよねって思ってるんだ、と仮説が立証されたような気持ちになって嬉しかったです。この気持ちは、前職の仕事では味わえなかったものかもしれません。
 
--  様々な種類のハンコが販売されていますが、どういう思いで作っていったのでしょうか?

七字:「請求書在中」のハンコが使われるのはビジネスシーンです。まずは、当たり前に硬い場面で使ってもらえることを意識しながら作っていました。

既製品ハンコの良さって、封筒を受け取った時、瞬時に「請求書在中」と読めることだと思うんです。情報伝達が早いハンコであれば、いろいろと作れると思ったので、それから少しずつデザイン性の高い事務用ハンコを作っています。

僕はただかっこいいだけのハンコを作りたいわけではなくて、経理担当者の方が普段使いできるようなハンコを作っていきたいと思っています。その思いはこれからもブレることなくやっていきたいですね。

送る人の顔を思い浮かべる楽しさを「ハンコ」にも



-- それでは最後に。ショップを開設してから数年経った「JIMUHAN」、今後どのようにしていきたいですか?

七字:JIMUHANは、「遊び心があった方が事務作業が楽しくなる」と感じている方々に使ってもらいたい。そのためにも、まずはこれまでに作ったハンコをより多くの人たちに広めていきたいですね。認知度が上がっていったら、TPOに合わせたハンコを新しく作っていければ、と思います。

切手はたくさん種類があるのに、事務用ハンコは全然種類がない。自分はハンコにも、もっと種類があっていいと思っています。その先に、切手を貼るときと同じようにハンコを押すときに相手の顔を思い浮かべる世界がやってくるのではないでしょうか。そして、そのハンコから多くのコミュニケーションが生まれていけばいいですね。

-- ありがとうございます!ハンコを押すときに相手の顔を思い浮かべる、すごく素敵だと思います!これからの商品も楽しみにしていますね!

(書き手:浦川俊平 編集:新國翔大)
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